男子の健やかな成長を願って飾る五月人形。これには、いくつもの種類があります。なかでも伝統的で人気が高いものが甲冑です。
端午の節句に鎧兜を飾る習慣が生まれたのは、江戸時代ごろともいわれています。当初は武家における男子の誕生を祝う習慣でした。武家にとって甲冑は仕事道具であり、命を預ける大切なものでもあります。そこから転じて、男子の身をも守ってくれる、魔除けのような意味で飾られるようになったとされています。
甲冑の飾りには、鎧飾りと兜飾りがあります。それぞれについてご説明します。
戦国武将の象徴でもあった兜飾り
兜だけを飾るスタイルを、兜飾りと言います。
戦場では、敵は急所である頭を狙ってきます。兜はそれを防ぐことから、とても重要なものとされてきました。
戦国時代になると、兜にはさらに特別な意味が生まれます。
兜の前面には「立物」という大きな飾りがあります。これは平安時代以降に生まれた、日本の兜独特の意匠です。防御の性能にはあまり関係ないそうですが、威厳を見せて敵を威嚇する意味合いや、また戦場で味方を識別しやすくするという意味があったとされています。
安土桃山時代になると、各有力武将はこの立物に趣向をこらすようになります。独特のデザインで、武将の個性や哲学を示すものとなっていきました。こうしたことから、兜は美術工芸品としての価値も持つようにもなっていきます。
兜飾りではこうした歴史と伝統を踏まえ、勇ましくも装飾を凝らした美しいものが多いことが特徴です。
兜飾りの各名称について
兜には各部署に名前と役割があります。
知っておくと鑑賞する際にもより魅力が深まるでしょう。
・立物…日本式の兜の特徴的な飾りです。写真のもの「鍬形」と呼ばれ、平安時代頃にはすでにみられる代表的なものです。将帥などを示したものと推測されています。
・錣…後部から飛んでくる弓矢等を避けるためのもの。
・兜鉢…頭を守る鉄板です。頭頂部から髷を出すことで兜を安定させたともされています。
・吹返…左右から飛んでくる弓矢を避けるための防具です。
・目庇…もっとも重要な額の部分を守るためのものです。
・面頬…兜を固定するための紐です。